祭りの写真など

「その手で御釈迦の顔撫でた」

大阪の太鼓台の担ぎ唄でしばしば耳にする「坊さん蛸食うて反吐ついた、その手で御釈迦さんの顔撫でた、お釈迦も呆れて飛んで出た」という歌詞があります。枚方のものが特に有名でしょうか。
「蛸食うてへとつく」とは美味しいものでも食べすぎるとおなかを壊すという戒めを込めたことわざです。これに蛸も坊主も頭が丸いという連想でくっついたのでしょう。
それでは「その手でお釈迦の顔撫でた」はどこから来たのでしょう?
大阪市伝法に太鼓台担ぎ唄として伝わっている物のうち、

うちの隣の お茶婆さん
やき餅焼くのに 手テ焼いて
その手で お釈迦の顔撫ぜて
お釈迦も慌てて 跳んで出た
それで えじやないか ええじやないか

(「太鼓勇め歌  伝法考」http://miyosino.web.fc2.com/maturi/uta.htmlより引用)
のような歌詞が元ネタなのではないかと思いました。しかしこの歌詞だとなぜ「坊さん蛸食うて反吐ついた」からつながるのかが分かりません。他の地域でも同様の囃子唄が伝わっていないか調べました。

すると全国的にも同様の唄や囃子言葉が分布していて、「女性(主に隣の婆)」が「餅を焼くと言ってヘソ(臭いもの)を触り」、「その手でおしゃかさんの顔を撫でたり餅を供えたりして」、「おしゃかさんが臭がったり飛び出したりする」という基本構造があることが分かりました。
キーワードは「婆」、「餅・団子」、「ヘソ(臭いもの)」、「その手」、「お釈迦」です。
このことから「反吐」と「ヘソ」の音が似ていて、なおかつどちらも臭いものであるので「坊さん蛸食うて反吐ついた、その手で御釈迦の顔撫でた」という風につながったのではないかと考えます。また坊さんと御釈迦さんの親和性が高いことも挙げられます。

このような囃子唄は島根県から北陸、東北、北海道など日本海側と大阪府、愛知県に分布しているので、元となった歌は上方で発生したのではないかと思います。しかしながら大阪の伝法以外では尻取り唄に組み込まれたものしか見つけられていません。
以下全国の類似の囃子唄

・島根県出雲市、旧大社町で12月8日に行われる八日おやきでは古い針を刺したオヤキを川に流す針供養の行事があり、オヤキをもらいに来る子供たちが

「オヤキ焼くててへそなでて、その手でお釈迦さんの頭なでた」、 また、「オヤキ焼くててへそ焼いた」などと節まわし面白くはや

すとのこと。(「近畿大社会 ふるさと大社 大社町の年中行事」 http://kinkitaisyakai.net/fukei/gyoji/gyoji3.htmlより引用)

・島根県、松江祭に出る鼕行列で鼕(太鼓の一種)を叩くときのはやし言葉として

かあたかあた、かあたかた、堅気の袴でおいでてね。星上別所で飯とって、その手でおしゃかのだんごこねた。トウトウト

があるとのこと。(「鼕 ARCHIVES 鼕の叩き方」http://dodarazu.net/doo/matsue_do_002_8.htm より引用)

・石川県中能登町、旧鹿西町で12月8日に行われる針供養の行事、針歳暮(ハリセンボ)では

おやき焼き焼き、へそ焼いて、その手でおしゃかのだごこねた

のはやし言葉が使われたとのこと(『鹿西町史』(平成3年)p588)。(「能登のうみやまブシ(西山郷史) 市町村史に見る「ハリセンボ」」 http://d.hatena.ne.jp/umiyamabusi/20051210/1200490853 より孫引

・同じく中能登町の鳥屋地区にもわらべ歌が伝わっている。

おっちや隣りのやんちゃ婆さ おやきやきやうちやいて その手にお釈迦の団子こめて お釈迦くさいと鼻つまんだ

(「中能登町(島屋地区)の文化・歴史 昔話伝説 付わらべ唄等 5.釈迦の団子」http://toriya.e-monda.com/bunka/mukasi/mukasi50/mukasi505.htmより引用

・石川県に広く伝わる遊ばせ唄(わらべ歌の一種)に歌い出しが「昨夜(ゆんべ)夢見た地獄の夢を」で始まるものがある。一例として前田林外 (儀作)(1907)『日本民謡全集. 〔正編〕』 p16(NDLデジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/854973)より引用する。

能登國鳳至郡地方
昨夜(よんべ)見た見た地獄の夢を、鬼は餅搗く閻魔はちぎる。鼻欠地蔵が食いに来る。われも食いたか手伝いせ。手伝いしようにも襷がない、襷がなけりゃ、隣へ行って借って来い。隣の婆さまお茶婆さ、欠餅焼くてて臍焼いて、その手でお釈迦の顔撫でた、釈迦臭いてて鼻つまんだ


他の例
・「ゆんべ夢みた - 金沢市三社町」 NPO法人日本子守歌協会 http://www.komoriuta.jp/ar/A06011717.html
・pdfファイル「法事と御講と御書様~福島の童唄②」http://fukushimamachi.com/imamukashi/imamukashi55.pdf 石川県能美市福島町町内会サイト内福島町の今昔より

・秋田県では 

姉コ起きれであぁおおごとだ 戸棚の塩辛瓶(しょがらがめ) チャコまげだ しゃくしないどて 手でさらって その手でお釈迦様さ 団子あげた お釈迦臭いどて鼻曲げだ その鼻治すに 三日かかった

(「ほっとあいあきた(通巻423号) 1997年(平成9年)10月1日発行」秋田のわらべ唄の項 http://common3.pref.akita.lg.jp/koholib/search/html/423/423_032.html より引用)とあります。

・同じく秋田市新屋浜で明治頃まで歌われた唄 

新屋の大門 塩辛(しょがら)の手 その手で お釈迦さんに 団子あげだ お釈迦さん くせぇどって(臭いと)鼻まげだ(曲げた)

(「二〇世紀ひみつ基地 塩田から風力発電まで・新屋浜変遷」http://20century.blog2.fc2.com/?no=678より引用)

・青森県に伝わる悪口唄 

(着飾った女の人を揶揄して) 今 行(え)った あねさま あんまりだ おがわさ湯 くんで 顔(つら)洗った その手でお釈迦さ 団子あげだ お釈迦 臭せえと 鼻 ねじたぁ もどりに 誓願寺(せえがじ)の団子盗んで 隠坊(おんぼ)にふまれて 尻(けつ)だくら

(「青森県音楽資料保存協会 事務局日記バックナンバー (327)わらべ唄 青森風土記 その25」http://www7a.biglobe.ne.jp/~amusic/un0409-2.html より引用)

・北海道江差町で歌われた餅つきの歌 

寺の下のさよばさま 御廁さ湯ことてチャペ洗った その手でお釈迦さ団子あげた お釈迦臭いとて鼻まげた

(江差町公式サイト「江差餅つきばやし」http://www.hokkaido-esashi.jp/modules/sightseeing/content0083.htmlより引用)

・愛知県幸田町のわらべ唄 

おらが隣の強情ばばさ、餅を焼くとて手を焼いた。あつくてあつくて○○撫でた。その手でおしゃかのだんごこねた。

(「幸田広報 昭和30年4月8日発行 郷土資料その五十三俚謡」http://www.town.kota.lg.jp/index.cfm/1,32024,c,html/32024/koho_19550408.pdf より引用。伏せ字はおそらく陰部を意味する隠語か。




大阪府枚方市、枚方宿の太鼓台の唄

牡丹に唐獅子竹に虎
虎追うて走るは和藤内
和藤内お方に知恵貸そか
知恵の中山清閑寺
清閑寺の和尚さん坊さんで
坊さん蛸食うてへどついて
その手でお釈迦さんの顔撫でた
お釈迦さんも呆れて飛んで出た
エーラエーラエラサッサ
 枚二校区コミュニティ協議会広報「礎(26号)2016/12/15発行」 https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000004/4007/91384.pdf より引用




大阪市浪速区、難波八阪神社の太鼓台の唄

一とや 二たや 三四(みよ)五  五つのお次は六つ七つ
浪速の船頭は松右え門  松右え門 宗右え門 富士の山
富士の山には笠きせて  竿竹持たせて伊勢まいり
お伊勢まいりは花ぼたん  ぼたんに唐獅子 竹に虎
虎追うて走るは和藤内  和藤内には知恵貸そか
知恵の中山誓願寺(じょうがんじ)  誓願寺の和尚さんは坊さんで
坊さん蛸喰いへとついて  その手でお釈迦さんの顔なぜた
お釈迦さんもあきれてとんで出た
オラガ エーヤ エラサッサ
 難波八阪神社の祭りで掲げられている歌詞から引用 
 「のぉ的自悠時間 新館:平成24年の夏祭り “難波八阪神社”」 http://blog.livedoor.jp/nohzoh/archives/29348507.html に歌詞の写真掲載


枚方と難波八阪神社の唄はいずれも尻取り唄なので「かき餅焼くてて臍焼いて、その手で御釈迦の顔撫でた」という言い回しを踏まえたものだと思われます。
「坊さん蛸食うて反吐ついた、その手で御釈迦の顔撫でた」は「反吐」と「ヘソ」の音が似ていて、なおかつどちらも臭いが強いものだということから結びついたのでしょう。「へとついた」、「へそやいた」、似てますよね?坊さんとお釈迦も関連性が強いです。
また伝法に伝わっている唄は歌詞から汚い部分を取り除いています。




愛知県幸田町は昭和25年の創刊号からほぼすべての広報を掲載しています。昭和25年の創刊号以降少なくとも昭和31年まで郷土誌の項目が断続的に掲載されています。「広報こうた・議会だより」http://www.town.kota.lg.jp/index.cfm/15,240,20,html


この記事の内容は元々、太鼓台担ぎ唄その他編に組み込む予定だったのですが、あまりに分量が多くなったので少し直して独立した記事にしました。
関連記事
  1. 2018/07/12(木) 19:52:19|
  2. まとめ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
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